コンサルティングや研修で顧客満足についてお伝えすることがありますが、
重要視しているのは「一貫性」です。
つまり、誰か一人が声高に「顧客満足」を叫んで、
誠実に丁寧に仕事をしていても、お客さまに関わる他の人が
不誠実で適当な仕事をしていたらすべてが台無しになること。
経営者であるトップが心の底から顧客満足を追求し、
社員に浸透するまで、あきらめず伝え続けること。
自らが率先垂範すること。
お客さまに対する一貫性、社員に対する一貫性があって、
はじめて「顧客満足」のスタートラインに立ちます。
今日のお話は、長野のギターメーカー、
フジゲンさんの心に残ったお話です。
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この会社を創業し、たった一代でエレキギターの生産で
世界一のトップメーカーに育て上げたのが横内祐一郎会長です。
横内会長が近所で行きつけの食堂に行くと、
店主から突然「今日は、金は要らない。おごりだ」と言われたそうです。
理由を聞くと、店主はこんな話をしてくれました。
「あんたの会社に出前を下げに行くと、
いつもピカピカに洗われて米粒ひとつ残っていない丼が
棚の上に並んでいる。
しかも、真っ白でぱりっとした清潔な布がかけてある。
俺はいつも出前の片付けで汚い丼を見るたびに、
自分はなんて情けない仕事をしているのかと悲しくなる。
けれど、あんたの会社に行くと、俺はいつも背筋が伸びて
すがすがしい気分になるんだ。
だから、今日はお礼の気持ちとして、昼飯をおごらせてほしい」と。
フジゲンの社員がこれほど素晴らしい行動ができるようになったのは、
会社がまだ小さな工場だった頃から、横内会長が
「世界一の会社ならばどうするか。
それをいつも考えて行動してください」
と社員に伝え続けてきたからでした。
それが「真っ白な布をかけられた丼」という形となって現れたわけです。
しかし、ある読者からこんなメールがきたのです。
「確かにいい話ですが、出前でとった丼を
わざわざ洗う必要があるのでしょうか?
それでは、出前のお金を払った意味がないのではありませんか?」
理屈で言えば、その方の言う通りでしょう。
出前の料金には、丼を洗うお店の人の人件費も
含まれているはずですから、お金を払ったお客が丼を洗う必要は
どこにもないわけです。
それを理解した上でなお、私は出前の丼をきれいに
洗って返したいと思うのです。
その行動が合理的かどうかは私には関係ありません。
また、丼を洗うことが正しく、洗わないのが間違っている、
と言っているわけでもありません。
「どういう人間になりたいか」
「どんな人生を歩みたいか」
という価値観は人それぞれで、正しいも間違いもないからです。
人間関係においては、自分がしたことがすべて返ってきます。
人間も社会も、合理性だけで動くのではありません。
むしろ多くは非合理なもので成り立っています。
だからこそ「ありがとう」という感謝の気持ちや、
助け合い、思いやりがたくさん生まれるのです。
参照文献
『「人に頼りたくない」のも「弱みを見せたくない」のも
あなたが人を信じていないからだ』 小倉宏著 青春出版
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居酒屋やレストランに食事にいくと、
散らかし放題にして帰る人がいます。
一方で、自分の食べた食器類をまとめたり、
食べこぼしたものを紙ナプキンで拭いたりする人もいます。
お店ですから、片づけるのも店員さんの仕事かもしれません。
でも、こうした心配りをされた店員さんは、どう感じるのでしょう。
片づけるだけでなく、
「ありがとう、ご馳走さま。美味しかったよ」
という言葉を言ってくれる人もいます。
小さな思いやりや言葉がけが、
どれだけ人の気持ちを温かくするでしょう。
きっと、その温かな気持ちが次のお客さまへの接客や
仕事への誇りにもつながっていくことでしょう。
小さな思いやりは、大きな勇気に変わります。
願わくば、私たちが小さな思いやりの発信者でありますように。
最後までお付き合いいただきありがとうございます。
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